原点「治水は政治」:2021.04.07. 国土交通委員会

私の仕事人生のふり出しは、農業土木のダム設計の技官です。大学時代に出会った坐禅の師であり、歴代総理の指南役として影響力を振るった四元義隆先生の勧めで農水省に進み、着任先で「国家の計は治水にある」と教えられたその真意を知りました。

初任地の米沢をはじめとして、東北エリアで多くの農業用の利水ダムの設計に携わりました。農林水産省といえば、農家や畜産、漁業や林業を所管しているイメージが強いかもしれませんが、とりわけ戦後の食糧難・エネルギー不足の時代から日本が急激な経済復興を遂げていく時期には「水を治める、水をコントロールすることが国の根幹である」と諸先輩方からたたき込まれてきました。

近年、気候変動・気候危機の影響もあって、未曾有の豪雨や激甚洪水被害が頻発し、多くの尊い人命が失われています。東日本を襲った台風19号の甚大な被害や、昨年の熊本での線状降雨帯による短期集中豪雨も記憶に鮮明です。雨の降り方が変わってきており、従来の河川インフラだけでは吸収しきれない大水量が逃げ場を失って、破堤や溢水・越水、バックウォーターによる市中での内水氾濫などを引き起こしています。

昨年、政府は治水行政における歴史的大転換に踏み切りました。これまで、治水と利水行政は、省庁縦割りの弊害もあって、連携することなくバラバラでしたが、「流域治水」という考え方のもとに、都道府県をまたがる上流から中下流全体までをひとつの水系と捉え、治水ダムも利水ダムも一緒になって、洪水被害を緩和吸収するためのハードとソフトの一体運用をすることに転換しました。

政府の基本方針が閣議決定されたことを受け、いま開かれている通常国会に関連法案が提出されています。私が行政官時代から注力し、政治家になって以降も持論として主張しつづけてきた一体管理・一体運用が、ようやく動き始めています。命を守り、年間1兆円以上もの経済被害を抑制するためには、縦割りの弊害と決別して、ありとあらゆる手法で取り組むべきです。

仕組みはできましたが、画餅になるか、関係者が一体となって重い扉を実際にこじ開けていけるかどうかは、法案の起案者にして運営の主体となる国交省の本気の覚悟次第だと思います。

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国土交通委員会にて2021年4月7日、1時間におよぶ議論を行いました。

荒井

流域治水は50年に1回あるかの大改正。流域治水にしても何にしても、気象庁の観測が一番のベースになる。今回、気象庁の線状降水帯という一番の難敵を解決することに、気象庁も全力を尽くすとしている。委任あるいは予算など、線状降水帯の観測についての見通しについて伺いたい。

長谷川政府参考人

線状降水帯の予測精度向上のためには、関連の深い水蒸気の正確な把握が重要な要素。令和二年度第三次補正予算により、洋上観測の強化やアメダスへの湿度計の導入などを進めている。洋上観測の強化については、気象庁の観測船におけるGNSSを使った水蒸気観測で一定の精度向上が示されている。海上保安庁の測量船四隻とも連携をした観測体制を構築することとし、実際の観測に当たっては海洋気象観測船の機動性を活用して運用したいと考えている。また、大学、研究機関ととも連携し、予測技術の高度化を図っていくとともに、更なる精度向上のために最新の技術を活用した観測の強化なども引き続き検討。

荒井

まだまだ精度としては不十分ではないか。民間と協力をし合い、精度を高めるための技術開発をすべきでは。毎年一兆円の被害が出ているのだから、国をあげて、すべての部局が協力をし合うという体制を取ることが必要。そのためには、今の制度や気象庁予算では不十分だと思うが、大臣の見解はいかがか。

赤羽国務大臣

これだけ災害が続くと、気象予測が非常に重要。公明党の山口代表が、お父様が気象台OBということもあり、先日、気象庁に関する議員連盟が発足。立憲民主党にも応援していただければ、私たちもしっかりとそれに応え対応していかなければいけない。防災・減災を実現するためにも、気象予測の精度が向上するのは、本当に大事。引き続きご指導ご支援をお願いしたい。

 

荒井

新田次郎も気象庁の職員だった。彼が富士山のレーダー建設の立役者。そういう人たちを集めて気象庁応援団というのをつくっていくべきだと、私も思う。気象庁の役割を国民に訴えていくべきだと。

ハザードマップを中心とする、災害弱者と言われる人たちに対する対策が不十分だったのでは。国土地理院はもっといろんなことをやってもいいと思う。どうですか。

野田政府参考人

国土地理院では令和元年、自然災害伝承碑の地図記号を制定、地図・地形図等に掲載。ハザードマップは、元になるものは各市町村が災害の種別ごとに作成、国土地理院においてはこれを集約、ウェブで一元的に閲覧できるような環境を提供している。今後も継続的な改良に取り組んでいきたい。

明治期の低湿地というような、過去の土地利用から地域の災害リスクをリスような地理空間情報や、防災教育や地理教育に活用できるコンテンツを集めた地理教育の道具箱も公開、活用いただいている。市町村との連携も積極的に進めているところ。地域における防災力の向上を支援していきたい。

 

荒井

防災教育、郷土の履歴というか歴史というか、災害の歴史みたいなことを副読本として作るときに国土地理院はもっと前面に出ていいと思う。地域ごとに災害の形態というのは違う。その災害の形態を地域地域の副読本として普及させていくというか、作っていく、そいうことを支援していく、そういう活動を国土地理院が中心になってやれたらいいと思う。もっと小学校や中学校や高等学校という、教育の現場と一緒に考えてみては。

ところで、今度の法律では集団移転の話がのっている。集団移転はものすごく難しい。どういう具体論があるか。

榊政府参考人

防災集団移転促進事業、最近では、東日本大震災の復興で大変活用された。この事業に取り組んできた地域からは、合意形成の難しさや、ノウハウを持っていない市町村にとっては、災害危険区域の指定からはじまり非常に負担の大きい取り組みであったと伺っている。一番大事なポイントは、何よりも住民の合意形成を図ることであろうかと思う。

昨年度から、十戸以上の住宅団地が必要だった要件を五戸以上に緩和。住民の意向の把握など、計画の策定の部分のてこ入れをするために、予算面での支援をメニューとして新たに加えた。ノウハウが不足している自治体に対しては、国の職員が直接指導助言なども。こうしたことでこの事業が少しでも進むよう努力していきたい。

荒井

流域治水の話を。今までの治水、旧河川局の治水の考え方は、一個ずつの治水ダムをどう運営するかというのに的を絞りすぎ、利水との関係、あるいは地域との関係という高域な考え方というのは乏しかったと思う。どう考えて乗り越えていくのか。

井上政府参考人

河川管理者が中心となってやってきたということだけではなく、いろいろな関係者に関わっていく。今回の法案もそういうことを意識してやっている。

インフラと避難というものも、実は一体不可分のところがある。整備をすれば避難をする時間を稼げる。防災の情報の伝達とか避難とか、福祉の方々にどうやってご協力いただくか、そういうことも密接不可分。まちづくりと一緒にやっていくということも。まちづくりと治水、インフラとの関係というのも非常にお互い相互作用があるということは、これまでしっかり対応していなかった。ばらばらになっていたもので一緒にやっていけるものがないかということを探っている。

その一つが、農水省さんとの関係。林業の林野庁も同じように取り組んでいる。流域治水というのは非常に大きな概念で、いろいろな関係者に協力いただける取り組み。しっかりやっていきたい。

荒井

津田永忠は、江戸時代の治水を成功させた。岡山市のそばを流れる百聞川(放水路)を作り上げた人。この百聞川の越流堰を造った人。一昨年のあの大水害の時に、この施設があったので岡山市は救われた。残念ながら、真備町の方は水防組合がなくなったこともあって、大被害を被った。水利施設あるいは治水施設というのは歴史的なものを持っていて、それを発掘するだけで、新しい試みの治水技術というのを発掘できるんじゃないか。

河川ごとに、流域ごとにカルテを作って、森林の具合はどうなのか、あるいはそれぞれの土壌はどうなのか、雨の降り方はどうなっているのか、どこが河川決壊したのか、越流したのか、その情報をずっと蓄積していることが必要だと思う。どうですか。

井上政府参考人

川にまつわる色々な情報をきちっと記録し、それを残し活用していくことは非常に重要だということは分かっているが、なかなかうまく構築できていない現状。しっかり研究者の方々とも、昔の技術も評価して、これからも生かしていくことをやっていきたい。デジタル化、DXというようなこともある。データを使える環境が整ってきているので、しっかりと頑張っていきたい。

荒井

津田永忠の研究をしている小嶋光信さんが、治水というのは政治である、治水は文化である、自然との共生であるということを述べている。まさしくその通り、治水は総合的な上下流の調整であったり、全てのものを含んでいる。政治そのもの。どうして河川工学をやった、治水をやった政治家がいないのか。政治そのものなのに、政治家を育てられていない。

今度の流域治水の中では、治山事業とか、山を治める植林や森林整備について余り書かれていない。これはどうしてだろうか。

井上政府参考人

山、森林をを管理するということは、治水と密接不可分だと考える。色々なことが相まって、大洪水のたびにさらに大きな洪水を引き起こすということが顕著になっている。農林水産省さんと連携しないといけない。同じ沢の中で、上流では森林を管理し、それでも万が一の時に土砂と流木が流れてくる時には、人家に絵強を与えないように砂防で対応するような事例が出てきた。残念ながら、災害の被災地から始まっている。これを被災地だけではなく、これから起こるかもしれないところに事前防災としてやっていくことが重要。今回新たに、百九の水系の中でつくっている地域ごと・流域ごとの協議会内に、林野部局、林野庁の出先の森林管理局だけじゃなく、県の林務部にも入ってもらう形で、普段から密接にできるような環境を作って対策を進めていきたいと考えている。

荒井

林野庁は、流域治水の中で、治水部局からこの辺りの水が出てきた危ないと言ったら、その辺りの整備に補助金を集中的につけるとか、間伐材の切った林を全部下まで下ろせなかったら等高線に沿って置くとか、上から土砂が流れないように、そういうことをできると思う。どうですか。

小坂政府参考人

ご指摘の通り、森林の有する水源涵養機能であるとか土砂の流出抑制機能を発揮させていく、これは非常に重要。今回の流域治水を進めるに当たって、水系ごとに設置される流域治水協議会に我が方が参画する、森林管理局の職員、都道府県の林務担当が参画するということをもう進めている。例えば河川の上流域において流木の発生を抑制するために、治山ダムを集中的に配置していく、保水機能を維持するための森林整備を重点的に実施していく、そういうことを具体的に下流の治水対策と連携して進めていくことにしている。より一層、治水との連携を進め、安全の確保を林野庁も頑張っていきたい。

荒井

頑張ってください。協力してあげてください。山を治めることは、国を治めること。林野庁の役割は大きい。

森林環境譲与税が新たにつくられた。これは当初の目的としていたことに使われているのか。都市側に少し手厚くなっているのではないだろうか。どう思いますか。

川窪政府参考人

森林環境税の譲与基準については、森林整備を進めるため、森林の需要の増加が重要であることや、国民全体の森林環境是寺への理解が必要であることなど総合的に勘案し、人口を三割と設定している。見直しについては、衆参両院の総務委員会の附帯決議において、各地方団体の森林整備の取り組みや施策の効果を検証しつつ、必要がある場合には所要の見直しを検討するとされている。譲与初年度の活用実績については、実績の分析も行っているところ。引き続き、こうした森林環境譲与税による効果を検証、その後の事業の実施状況も見極めていきたい。見直しについても引き続き検討していきたい。

荒井

ところで、治水財源というのは、恐らく圧倒的に少ない。どういうふうに利益を出すことができるかということを工夫してやるのが、必要なことだと思う。今、自然再生可能エネルギー、電力をどうやって作り上げていいのかということに日本中が困窮している。その中で最も質の高い電力は水力発電。利水ダム、農業用のダム、小水力発電、あるいは水力の、電気会社が持っている、電力会社が持っている水力発電だと揚水発電を速やかにというか簡単にできるように制度の仕組みをつくってやるとか、そういうことを考えるべき。経済的な活動と密接な制度というものをつくってやることが、本当の意味の治水事業につながるんじゃないか。

井上政府参考人

既存にある施設、貴重な自然、天然資源である水をできるだけ有効に活用するという観点は非常に重要。今までやってきた技術、管理の体系をどういうふうに変えられるのか、新しく組み込めばどういうことができるのかということは、私たちも貪欲に検討すべき。治水は夏場に非常に重要だが、需給の逼迫度合いというのは実は冬の方が暖房用の電力とかであるとか、それから地域の偏在性とか、うまく活用したらできるとか、いろいろな可能性はある。これからも技術面、ちょっと弱い財政、経済の面、勉強して、しっかり頑張りたい。

荒井

赤羽大臣、どのようにお考えか。

赤羽大臣

災害から国民の皆様の命と暮らしを守ると言うのは簡単だけれど、それはそれなりにコストがかかる。今後、その費用をどう国民でシェアをしていくのかということというのは非常に重要。それがなくては具体的にはなかなか計画が前に進んでいかない。政治家としても行政の立場でも、そうしたことは発言しにくいけれども、まず省内でしっかり検討していこうと考えている。

荒井

荒川や江戸川の水没地域、江戸川区の区民というのは全部で六十七万人いると言われています。海抜以下のところに住んでいる人がほとんど。そういうところへの対策は、広域治水のこの制度なり法律でどこまで対応できるのか。

榊政府参考人

ゼロメートル地帯には、人口や資産が多く集積し、一たび大災害が発生すると、広範囲で長期間の浸水が想定される。昨年の十二月に取りまとめました災害に強い首都「東京」形成ビジョンで、早い段階からの広域避難ができなかった場合でも命の安全と最低限の避難生活水準が確保できる避難場所として、高台まちづくりの推進が打ち出された。今回の法案では、この高台まちづくりの推進にも資するよう、避難路や避難場所、避難者の診療の場となる医療施設や生活関連物資を供給する店舗などが一体になった避難拠点を都市計画に位置づけ、計画的な整備を図ることとした。避難拠点の整備に対する財政的な支援措置も用意。

治水対策をまずはしっかりと講じていくことが大切。災害が発生した場合にはこうした取組を通じて、ゼロメートル地帯における防災まちづくりを進めてまいりたい。

荒井

高潮で非常に悩んでいるのは、ニューヨーク市。ニューヨーク市は、この高潮対策のために、世界中のコンサルタントを集めて競争入札をさせ、まちづくりと連携してどういうふうに高潮対策ができるかということをやった。東京の高潮対策やゼロメートル地帯の対策は、世界の知恵を求めるぐらいの、そのぐらいのものと思う。流域治水というのは、今までできなかったことの反省を河川局はするべき。しかしそれだけに、今までの先輩ができなかったことをやるわけで、相当な覚悟が必要。

以上

資料:議事録(令和03年04月07日国土交通第10号04_荒井聰委員)